朝に勉強することは、
いろいろな人が勧めています。
それだけ効果を実感できるからですが、
それでは”朝勉”には、
どのような効果があるのでしょうか?
知識を取り込みやすい
空腹のため扁桃体を味方にできる
締め切り効果が働く
ツァイガルニック効果を期待できる
静寂の中、集中して勉強できる
自分に自信がもてる
ノルマを早めに達成できる
朝の勉強効率が高い理由には、
さまざまな要因が関係しています。
まず、朝は睡眠を取った直後ということ。
睡眠中には、
前日に学んだことや経験したことが整理整頓されるため、
起床したときには記憶の管理棟である海馬に、
”ある程度の空きスペース”ができています。
そのため、朝に学んだことは、
スッと抵抗なく脳内に入ってくるのです。
これが夜となると、
そうはいきせん。
その日一日、過ごしてきたなかで見聞きしたこと、
学んだこと、経験したこと、遭遇したことが
雑多に海馬につめこまれ、
脳内の一時記憶庫は満杯状態になっています。
ですから夜に勉強しても、
朝ほどスンナリとは脳内に入ってこないのです。
朝は幼年時代
朝に勉強すると記憶しやすいのは、
まだ前頭葉の働きが鈍っていることも
理由として挙げられます。
脳の前方にある前頭連合野は、
五感を総括して認知したり、
それに判断を加えたり、
過去から記憶を引っ張りだしてきたり、
論理的思考をしたりする「脳内の中枢」。
つまりメインメモリであり、
CPUの働きも兼ねています。
ここの機能が低いということは、
比較的、
「記憶しやすい状態」にあることを意味しています。
これは、言ってみれば
催眠術や暗示のようなもの。
催眠術では、まずは
目を閉じてリラックスさせ、
意識レベルを下げていきます。
つまり前頭葉の機能を下げるわけです。
こうすることによって、
暗示の言葉が、
海馬や扁桃体といった潜在意識に直接とどくようになります。
早朝の勉強も、
そのようなイメージであり、
催眠術とまではいかなくても、
まだ頭がボーッとしているとき。
このときを逃さず
学習することによって、
暗記したいことを直接、
海馬に届けられる可能性が高まるわけです。
ただし論理的思考を得意とする前頭葉の働きが、
まだ目覚めきっていないので、
数学などの「頭の回転を要するような教科」は
しないほうがいいかもしれません。
英語の文章を音読したり、
英単語や漢字を書き取り練習したり、
歴史の年号・人名を覚えたりするほうが
頭に入りやすくなります。
朝は人生でいえば幼少期であり、
小学生の年代に当たります。
そのため、
子供のころの勉強を思い出して、
それと同じような「単純な内容」が
適しているのです。
子供のころは
余計な経験が邪魔をしないので、
丸暗記が得意です。
どんどん頭に入ります。
ただし欠点もあって、
まだ前頭葉が未発達なので、
論理的思考が苦手です。
ですから難しい過去問などを、
「1日という人生の中の、幼年期に相当する早朝」に解くことは
しないほうがいいかもしれません。
このように1日というものを、
人生の年代に当てはめてみると、
それぞれの時間帯に何を勉強するのが
適しているかが見えてくるものです。
もし日中に昼寝や居眠りを取り入れれば、
その眠りの最中に記憶が整理整頓されます。
しかも寝起きは、
前頭葉の機能が低下しているので、
朝の起床時に近い状態になります。
朝勉に抵抗がある人は、
居眠り直後の学習でも代用できます。
空腹だと記憶力が高まる
適度に空腹感を感じると、
大脳辺縁系に存在している扁桃体という部分が活性化します。
すると、”兄弟分”である海馬に指令が届き、
シータ波を発生させ、
記憶力を高める効果を期待できます。
大脳辺縁系は、
動物的な「古い脳」といわれ、
人間だけではなく
爬虫類や鳥類、両生類、哺乳類など、
あらゆる動物が備えています。
つまり本能に支配された領域であり、
潜在意識です。
適度にお腹が空くことによって、
本能や感情を司る扁桃体が活性化。
すると、生存にかかわる本能が刺激され、
その刺激が記憶の管理棟である海馬へと伝わるのです。
空腹感のほかにも、
少しだけ肌寒いような環境に身を置くことでも、
扁桃体は活性化します。
ですから朝の勉強は、
多少の空腹感とともに、
暖房などはあまりつけずに、
ちょっとだけ
肌寒い格好で学習すると
効果が倍増するかもしれませんね。
ただし過度のストレスは禁物です。
少々の空腹感、
少々の肌寒さであることが条件です。
お腹が空きすぎると、
今度は、
空腹感が前頭葉のワーキングメモリを支配してしまうため、
受験勉強どころではなくなります。
それでは本末転倒です。
風邪をひくほどの肌寒い格好も同様です。
「適度に危機感を感じる」ことによって、
扁桃体も「適度に」活性化するのです。
危機感を感じる場所は、
扁桃体だからです。
このように適度な空腹感が、
扁桃体や海馬を刺激して、
LTP(長期増強)を引き起こすことで
記憶力がアップ。
ですから、朝食前に勉強することがオススメです。
早朝は血糖値が低いというイメージがありますが、
脳内へブドウ糖を供給できないほどの
レベルではありません。
糖分を摂らずに激しい運動さえしなければ
大丈夫です。
むしろ、起床時のストレスによって
コルチゾールレベルが一時的に上昇するため、
血糖値が上がります。
血糖値の一時的な上昇は、
すぐに下がりますが、
それを気にするよりは
「扁桃体の活性化のメリット」のほうが
大きいのではないでしょうか。
ただし寝起きは、
血液の粘度が高いため、
軽くミネラルウォーターを飲むことをオススメします。
飽食の時代といわれるように、
日中に空腹状態の時間帯を探すことは
困難になってきています。
朝の起き掛けの時間帯こそ、
誰でも空腹感を感じることが
できる絶好の機会といえるのです。
ただし勉強を終えたら、
しっかりと朝食を摂りましょう。
そのまま小学生や中学生、
高校生が学校に行ったり、
社会人が会社に行くと、
脳が働かなくなり非常に危険です。
以上のような空腹感を利用した勉強方法は、
べつに朝でなくても可能です。
朝早いのが苦手とか、夜型の人は、
適度な空腹を感じるまで食べないことでも、
同じチャンスを手にすることができます。
限られた時間だからこその効果
朝の勉強というと、
なかなか2時間も3時間も確保できないものです。
人によっては
学校や会社へ行く前の30分だったり、
確保できても、
せいぜい1時間程度ではないでしょうか。
しかし、これはじつはメリットです。
1時間なら1時間と限定されているからこそ、
その時間内に
ノルマを達成しようとして
集中力が最大化されます。
これが、もし3時間も与えられていたら、
途中で注意力が散漫になって、
思ったように進んでいかない可能性があります。
短時間だからこそ、
その間に仕上げてしまおうとして、
質の高い学習になるわけです。
中間・期末テストや模擬試験がいい例です。
時間制限があると、
「短時間で仕上げよう!」という
気持ちがつねに働いていますから、
テキストや教科書を黙読する場合でも、
しぜんと速読になります。
知らずうちに、
朝の時間帯に速読訓練をしていることになるわけです。
それが昼や夜の勉強のさいに
役立つことはいうまでもありません。
夜の勉強でも、
自分で時間を設定したり、
キッチンタイマーや
ストップウォッチをつかって時間を測ることも、
たしかに可能です。
しかし、それは自分で設定した制限時間。
なにかあると時間を延長したりして、
「自分に甘くなる」誘惑が待っています。
それにたいして朝の勉強は、
これから学校や会社に行くという
「社会的なプレッシャー」がかかります。
遅刻するわけにはいきません。
自分で設定したわけではないので、
よりいっそう緊張感が高まるのです。
先ほどの扁桃体の話でいえば、
制限時間があるということも
脳を適度に興奮させ、
集中力や記憶力を高めてくれるわけですね。
中途半端に終わることの効果
朝の勉強に時間制限があると、
ともすれば
「不本意な箇所」で切り上げることが多くなります。
あたかも学校のテストや模試などで、
すべての問題を解き終わらないうちに
試験が終了してしまうように・・・。
「ほんとうは、もう少しやりたいけれど、
時間が来たから仕方ないか・・」といったことが
起こりがちです。
これは、
どうにもスッキリしないことのように思われますが、
じつは素晴らしい心理効果を期待できます。
その名はツァイガルニック効果。
中途半端なところで終わると、
その続きが気になってしまい、
次が待ち遠しくなるという効果です。
テレビのコマーシャルは、
この心理手法を上手に取り入れていますね。
いつもいいところで中断します。
それによって、
視聴者をテレビに釘付けにし、
CMという広告を観させるわけです。
広告を出している企業は、
これで売上のアップを期待できます。
朝の学習も、
「不本意な箇所」で中断するからこそ、
次の勉強が待ち遠しくなり、
スムーズにつなげていくことができます。
つまり勉強のやる気や
モチベーションが自然に高まるわけですね。
ツァイガルニック効果の素晴らしさは、
これだけではありません。
中途半端な箇所で読むのを切り上げたり、
問題を解いている途中で中断すると、
顕在意識のワーキングメモリでは
忘れてしまったように思えても、
じつは潜在意識下では考え続けています。
つまり学習後も、
脳の回転が止まらないということ。
あたかも有酸素運動を終えたあとも、
しばらくは脂肪の燃焼が続いていくように・・・。
あなたが通学や通勤している最中、
漫画雑誌を読んだり、
好きな音楽を聴いていたとしても、
パソコンのシステムメンテナンスのように、
ずっと脳はバックグラウンドで活発に活動しつづけ、
勉強した内容を処理しています。
これが短期記憶を長期記憶へと
格上げするために役立つのです。
自分が知らない間に、
脳内で何度も反芻し、
無意識のうちに
繰り返し復習しているのですから・・・。
これがもし、
きりのいいところで勉強を終えたとすると、
脳はそこで終了したと判断して、
背面下での思考をストップします。
ですから朝の限られた時間に、
中途半端な箇所で切り上げざるを得ないというのは、
むしろ歓迎すべきことなのです。
朝の勉強~そのほかの効果
朝に勉強する効果として、
周りが静かなので、
昼間よりも集中できるというメリットもあります。
集中力が高まれば当然、
記憶力も高まるわけです。
これは4時や5時といった早朝であるほど
顕著になります。
ただ「早朝の勉強がいい」からといって、
自分の生活リズムを無視してまで
無理はしないほうがいいでしょう。
早朝に起きる資格がある人は、
前日に早めに寝た人だけです。
もし前日に遅く寝て、
次の日に4時とか5時とかに起床すると、
寝不足になります。
そうすると睡眠中に記憶の整理をする余裕がなくなり、
前日に勉強したことが身につきづらくなります。
これでは本末転倒ですよね?
どんなに体にいいとされる食材であっても、
食べ過ぎれば体に害をなすように、
いくら朝早くの勉強効率がいいからといって、
睡眠不足をまねいてしまっては
健康を害するだけです。
いっぽうは過剰であり、
もういっぽうは不足という違いはありますが、
人体は極端を嫌います。
その意味では、蛇足になりますが、
小食が行き過ぎたり、
寝すぎたりすることも
体を痛めつけてしまいます。
寝すぎると中枢神経系が、
その間ずっと機能を低下させているために、
体の恒常性の維持に問題が生じるといわれています。
やはり体に対しては、
無理をかけないことが一番ではないでしょうか。
日中に静寂を求めるなら、
携帯用のイヤホンやヘッドフォン、
イヤーマフなどを耳に装着すれば、
静かな環境を手にできます。
また図書室や自習室、
防音性能の高い自宅の勉強部屋といった「場所を工夫する」ことでも、
静かに集中して学習できるものです。
べつに朝でなくても
静寂は作り出せるわけですね。
そのほか朝の勉強のメリットをあえて挙げるとすれば、
自分に自信がもてるという点があります。
朝に多少眠くても、
思い切って起床することは大変な戦いです。
ボクサーも、まずは早朝に自分に勝って起床し、
ランニングを継続することが
敵に勝つ第一歩といいます。
朝、誘惑にまけずに起床すると
爽快感があります。
毎日これを繰り返していけば、
「受験という闘争」に打ち勝つ土台となります。
ただし前述したように、
睡眠不足になると事情は一変します。
早朝に起きる資格があるのは、
早寝した人だけです。
最低でも6時間は眠らないと、
海馬での記憶の整理が滞るといわれています。
あえて早起きをして勉強し、
不足分は居眠りや昼寝で補うというテクニックもありますが、
無理は禁物です。
朝早く勉強時間を確保すると、
それだけ1日のノルマ達成に
早く近づけるというメリットもあります。
たとえば1日の勉強時間を
4時間に設定しているとすると、
朝に2時間勉強することによって、
すでに半分を達成できてしまうわけです。
そうすると肩の荷が軽くなって、
気分が楽になり、余裕ができますよね。
長めの朝勉のときは、
無理して2時間続けなくても、
朝食前に1時間だけ勉強し、
その後に朝食。
ちょっとお腹が落ち着いてから
第2ラウンドの1時間をこなす、
という方法でもいいと思います。
こうすると後半戦は、
扁桃体の働きが沈静化してしまいますが、
このへんは臨機応変でいいのではないでしょうか。
お腹が空きすぎて
勉強に集中できなくなるよりはマシだからです。